お客様からのクレーム対応~弁護士が教えるエステのトラブル対応法①~

 エステサロンを経営していると、「お客様からのクレーム」はつきものです。クレーム対応を受けたエステサロンはある調べだと約50%にものぼるというデータもあります。私の弁護士事務所にもサロン様からの相談で多いのがクレーム対応になります。
 クレームをつけられると、嫌な気持ちになり正直逃げ出したくなるかもしれません。ただ、安易な対応をしてしまうと、金品を要求するといった悪質なクレーマーの場合、サロン経営にも悪影響を及ぼすことになります。
 クレームの対応で最も大切なことは、しっかりと法律的な知識を持って、そのお客様に誠実に向き合うことになります。今回は、エステサロンのオーナー様に是非とも知ってもらいたい、クレーム対応法を弁護士が解説していきます。

1 エステサロンはどのような責任を負うのか

 お客様からクレームが来た場合、それが法律的にどのような責任を負うことになるのか。お客様の中には残念ながら悪質なクレーマーと呼ばれる方も少なからずいます。このようなクレーマーに対応する場合ためにも、サロンが負う責任について、ただしい知識を身につけておきましょう。

1-1 サロンが責任負う根拠は?

 エステサロンにおける施術を行う場合、そのサロンとお客様との間には、サロン側は施術を行いお客様はその料金を支払うという契約を結んでいることになります。そして、不幸にも施術ミスによって、お客様にやけどや肌トラブル、傷を負わせてしまった場合、サロン側は契約違反となり、民法上の損害賠償責任を負うことになります。

1-2 サロン側が責任を負わない場合

 お客様にトラブルが生じたとき、サロンは契約上の責任を負うことになりますが、常にサロン側の責任が認められるわけではありません。サロン側が行う事前のカウンセリングで、お客様自身がアトピーや妊娠していたなどの事情を説明していなかった場合には、サロン側も当然お客様の状況を知っていたら、注意したり施術を辞めてもらうようにできたはずです。
法律も無理なことを要求しているわけではないので、このような場合には、サロン側の責任ではなくお客様の自己責任になります。

1-3 サロンの責任の範囲は?

 では、サロン側が負う責任の範囲はどこまででしょう。法律では、「相当な因果関係がある範囲内」という小難しい用語で決められています。要は、施術ミスによって、お客様に生じた損害すべての責任を負うわけではなく、通常に生じうる範囲までと法律では決められています。
例えば、お客様に肌トラブルが生じて、皮膚科に通うことになった場合、その皮膚科の診療代とそこまでの交通費は責任の範囲内となります。

 ただ、これは実際に私の事務所にエステサロンのオーナー様から相談があった事例なのですが、お客様が「3日後からハワイに旅行に行く予定だったけど、こんな肌ではハワイに行っても楽しめないから旅行代金を返せ」という要求があったというものでした。サロンの肌トラブルから海外旅行のキャンセルというのは、通常に生じうる範囲とはいえないので、お客様からのこのような要望までには応える必要はありません。

2 クレームが来た場合にまず行うこと

 お客様対応をどんなにしっかりしていたとしても、エステサロンを経営する以上、お客様からのクレームを完全に避けることは難しいです。いざ、お客様からのクレームが来たときに慌てないように、クレーム対応の心構えを知っておきましょう。

2-1 お客様の話をしっかりと聞くこと

 お客様からのクレームがあった場合には、まずは、お客様が今どのような状況なのか正確に理解することに努めて下さい。最初のクレームが来た段階では、お店側に責任があるとは限りません。お客様のトラブルの状況を聞いて、担当したエステティシャンにも確認して下さい。
特に、お客様によっては、一方的にまくし立てたり、大声で怒鳴る方もいます。このようなお客様の対応をすると、サロン側としてはどうしても責任を感じてしまうことになります。
 ただ、状況も正確に把握しないまま、謝ってしまうと、その後のお客様への対応が難しくなってしまいます。お客様の言い分はよく聞いて、できる限り誠実に対応していることをわかってもらいつつ、大げさな罪の意識を持たないことも大切です。

2-2 お客様と話合いすることになったら

 クレームに関する話合いを行う場合、お客様から呼び出しを受ける場合があります。話合いの場所というのは、非常に重要ですので、できる限り自らのサロンに来て頂くことを心がけて下さい。もし、お客様がどうしてもサロンに行けないという場合には、喫茶店などの公共の場所で行うようにして、間違ってもお客様の自宅や会社などには行かないようにして下さい。

 また、クレームに関する話合いには、一人ではなく二人以上で対応するようにして下さい。また、その時の会話内容を録音しておくことも効果的です。

2-3 病院にご案内すること

 お客様からの肌トラブルで、サロン側が確認しても異常が感じられた場合には、サロン側で解決しようとせずに皮膚科などの病院をご案内するようにして下さい。サロンはあくまで肌や容姿をきれいにするところであり、治す場所ではありません。
 過去の裁判では、肌の異常トラブルを知りつつエステの施術を継続させたとして、高額な賠償金を命じられた事例もありますので注意して下さい。

2-4 安易にお金で解決しないこと

 お客様からクレームを受けて、サロン側がいくら謝っても「誠意を見せろ」と言われると、金銭で解決しようという気持ちになりがちです。ただ、安易にお金を渡す話をすると、それから相手の要求がエスカレートする可能性があります。
法律的にサロン側が責任を負う範囲はしっかりと見極めて、サロン側ができることとできないことを強く意識して下さい。最後まで毅然とした態度で対応しましょう。

3 その後の話合いで注意すること

 次に話し合いをする際の注意点を解説します。

3-1 無事に解決できた場合には、書面に残しておくこと

 お客様との話合いで、治療費と迷惑金を払うことで落ち着いた場合、その内容を書面に残しておいて、一切のトラブルが解決できたことを明らかにしておくべきです。書面が難しい場合には、最低限でもメールでも残すようにして下さい。

3-2 どうしても解決できない場合には弁護士に相談

 残念ながら悪質なクレーマーにあたってしまった場合には、どんなにサロン側が謝ったり、丁寧な説明をしても納得してくれることは難しいでしょう。クレーム対応することは、時間も取られますし、心理的にも大きな負担となります。
 このような場合には、割り切ってトラブル対応を弁護士に任せることも重要な判断です。日頃から相談できる弁護士を見つけておくこともサロン経営には重要です。

4 事前の対応策

 クレーム対応には、事前の対応策も重要です。クレームがあったときに「あのときこうしておけば」と思わないように日頃から準備しておいて下さい。

4-1 同意書、契約書を交わす

 お客様とトラブルが発生したときのことを考え、同意書や契約書などはきちんと作成しておくことが重要です。同意書や契約書には、施術の注意事項などを記載しておき、お客様に事前に理解してもらってから施術を受けてもらうようにしましょう。

4-2 提携できる皮膚科医を見つけておく

 エステサロンで多いクレームは、施術後の肌荒れや痛みといった肌トラブルになります。このような場合、通常の皮膚科に行けば、エステが原因であるとする診断書がすぐに作られてしまいます。
前もって皮膚科をはじめとする関連クリニックと提携しておけば、お客様にトラブルが発生したときに一緒にお客様と同行するなどして、正しい診断書を発行してくれることができます。

4-3 責任保険への加入

 最近では、お店の賠償損害をカバーしてくれるエステサロン向けの保険もあります。このような保険に加入しておき、リスクを分散させておくことも重要です。

5 まとめ

 法律の知識があると、クレーム対応にも自信が持てます。特に悪質クレーマーに対応する場合には、自サロンが責任を負う範囲をよく知っておく必要があります。スタッフはもちろん、サロン全体を守れる知識を身につけましょう。
 また、サロンオーナーとして、万が一のときに少しでもリスク分散ができるように事前の対策をとっておきましょう。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士茨木 拓矢
美容事業を経営されている事業者様は、薬機法(旧薬事法)や景品表示法規制など経営に絡んだ多くの法的課題を抱えています。これらの問題に対して、経営者目線でお客様とのチームワークを構築しながら、法的問題点を抽出し、最善の解決策を共に見つけ、ご提示致します。

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